2026年10月8日、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は「世界一になる」と改めて決意を示しました。発表で目を引くのは、世界各地から200人の経営者候補を選ぶ方針です。ただし、200人を育てる構想そのものが今回初めて出たわけではありません。過去の目標と今回の選定・登用を分けて見ることが大切です。
結論から言えば、ユニクロが世界一を目指せる理由は、商品ブランドだけではありません。各地域の成長を、現場の改善と経営人材の育成へ結びつけようとしている点にあります。この記事では、公式資料で確認できる事実と、そこから導く経営上の考察を分け、他社が学べる要点を整理します。

柳井氏が改めて掲げた「世界一」の意味
柳井氏の説明では、「世界一」は創業当時からの目標です。目標を掲げるだけでなく、そのための計画を立て、行動し、自分たち自身を変えてきたと振り返っています。今回の発表は、2026年に突然目標を新設したというより、事業の拡大を踏まえて挑戦を次の段階へ進める宣言と読むのが適切です。
その背景には業績があります。2026年8月期の連結売上収益は3兆9,633億円、事業利益は7,184億円で、いずれも前期から増加し、5期連続の過去最高を達成しました。海外ユニクロ事業も売上収益2兆4,111億円、事業利益4,398億円へ伸びています。
事実:海外ユニクロ事業は前期比で売上収益26.2%増、事業利益44.1%増。韓国、東南アジア・インド・豪州、北米、欧州の各地域で2桁の増収増益となりました(現地通貨ベース)。東南アジア単独ではなく、韓国・インド・豪州を含む地域区分の実績である点には注意が必要です。
考察:成長の再現性を高めるには、どの市場でも同じ商品を同じ売り方で展開するだけでは足りません。LifeWearという共通のブランド価値を保ちながら、各地の気候、暮らし、購買力に合わせて品ぞろえや売場、情報発信を調整する必要があります。公式決算資料も、商品・売場づくり・情報発信の連動を強化したと説明しています。
東南アジアは成長機会であり、実行力が問われる市場
柳井氏の資料は、若い世代と中間層の比率が高まる東南アジアに成長可能性を見込み、「日本のブランドだから買う」から「グローバルブランドだから買う」へ認識を変えることを目指しています。
人口構成は追い風になり得ますが、それだけで成長が決まるわけではありません。地域別の需要を読み違えれば、在庫や値引きが増え、ブランドの価値も傷みます。成長市場への出店と同時に、現地の顧客理解、商品計画、店舗運営を担う人材を育てられるかが問われます。
なぜ200人の経営者候補を選ぶのか
柳井氏の発表では、経営者候補をグローバルで200人選ぶ方針と、「優秀な店長」と「優れた経営者」は直結するという考えが示されました。具体例として、ユニクロ銀座店の幸田勇紀店長を、店長兼執行役員、グローバル営業教育責任者に登用したことも紹介されています。
ここで重要なのは、200人という人数だけを新規の育成計画と誤解しないことです。ダイヤモンド・オンラインが紹介した過去の経営者育成目標には、2020年までに200人の「経営者」をつくるという考えがありました。つまり今回の発表は、200人構想の起点というより、過去から続く課題に対し、世界各地で候補者を選び、現場の役割と教育責任を結び直す動きとして捉えられます。
店長の仕事には、売上や在庫の管理だけでなく、人材配置、顧客理解、チームづくり、日々の判断が含まれます。店舗を一つの事業単位として運営した経験は、経営者候補を見極める実地の機会になります。ただし、店舗運営が得意な人を自動的に全社経営へ移せるわけではありません。複数地域の損益、ブランド投資、組織設計を学ぶ機会も必要です。
| 育成の要素 | 店舗運営で試せること | 経営者への発展に必要なこと |
| 顧客理解 | 来店動機・商品反応を把握する | 地域・市場を越えて需要を比較する |
| 収益責任 | 売上、在庫、費用を管理する | 投資配分と長期的な利益を判断する |
| 人材育成 | スタッフの採用・育成・配置 | 多国籍チームをつくり後継者を育てる |
| 意思決定 | 現場で素早く対応する | 権限の範囲と説明責任を担う |
「全員経営」を支えるのは理念だけではない
資料は「チーム経営」と「グローバルワン・全員経営」を掲げ、全社員が経営者の視点で働く組織を目指しています。 この考えを大きな組織で実践するには、理念を伝えるだけでなく、現場に任せる判断の範囲、共通の評価基準、失敗から学ぶ仕組みが必要です。
ファーストリテイリングは公式人材育成方針でも、全社員が経営者の視点を養うことや、店舗スタッフから店長、経営人材へ進むキャリアを示しています。 考察:今回の店長兼執行役員の登用は、現場経験を経営上の責任へつなげる象徴的な一歩です。今後は一人の事例で終わらず、候補者がどの範囲の意思決定を担い、どのような成果と学びを得るのかが、制度の実効性を左右します。
ユニクロのグローバル戦略から学べる3つのこと
1. 大きな目標を、顧客価値と市場の選択に結びつける
世界一という目標は、数字だけでは意味を持ちません。ユニクロの場合は、日常着としてのLifeWearを軸に、店舗・商品・発信を連動させ、支持の広がりを売上成長につなげています。目標から逆算して、どの顧客にどの価値を届けるかを具体化する。この順番が、単なるスローガンと戦略を分けます。
2. 成長市場を選ぶだけでなく、現地で学ぶ人材を置く
東南アジアの人口や中間層の伸びは機会ですが、市場の成長だけを見ていては不十分です。現地の顧客の変化を商品、店舗、販売計画へ反映し、結果を次の判断へ戻す仕組みが要ります。地域の現場を知るリーダーに責任を持たせることは、本社の標準を押し付けるのではなく、共通ブランドの下で現地適応を可能にする条件になります。
3. 人材への投資を、報酬と長期価値に結びつける
柳井氏は、報酬の低い会社に優れた人材は集まらないと述べ、人材育成を最大の経営課題に位置づけました。また、企業の継続的な価値向上を重視する姿勢も示しています。 人材の獲得・育成・定着は費用であると同時に、成長を続けるための基盤です。
一方、給与を上げれば競争力が自動的に高まるわけではありません。評価の納得感、挑戦機会、権限、成果に応じた報酬がそろって初めて、人材投資が組織能力になります。2026年8月期には成長投資を優先しながら高還元も両立する方針が示されていますが、短期の利益と長期の投資をどう配分するかは、引き続き経営の判断です。
他の企業が実践するときの注意点
ユニクロのやり方を、そのまま自社に移植することはできません。世界共通のブランド、店舗網、商品計画など、同社が長年築いた仕組みがあるからです。人材育成を始める企業は「候補者を200人選ぶ」と人数から入るのではなく、必要な経営課題と役割を先に定義すべきです。
実践の順序は、①3〜5年後に必要な事業能力を決める、②現場でその能力を試せる仕事をつくる、③損益・人材・顧客の結果を複数の上司と部門で評価する、④報酬と次の挑戦機会を結びつける、の四段階です。海外拠点では、本社の理念を共有する一方、現地の事情に応じた裁量をどこまで認めるかも明確にしなければなりません。
まとめ|世界一を目指す組織から何を学ぶか
ユニクロの成長を支えているのは、高い目標、ブランドの一貫性、地域ごとの事業運営、そして経営人材を現場から育てる試みです。200人の候補者という数字は新奇な発表として消費するより、過去から続く経営者育成の課題が、今どのような選定・登用に進んでいるかを見る入口になります。
経営者は、目標を顧客価値と人材配置へ落とし込む。管理職は、現場の判断を任せ、結果と学びを支える。社員は、担当業務を単なる作業で終わらせず、顧客と事業の数字を結びつけて考える。世界一の答えはまだ決まっていませんが、成長を支える組織をどうつくるかは、企業の規模を問わず考えられるテーマです。
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