「熱狂は見物するものじゃない、参加するものだ」——リオデジャネイロ駐在中にかき集めたコネと根性で、ついにサンバドロモ本番パレードへ出場してきた。その一夜は、汗・羽根・轟音・涙のミルフィーユ。観客席からは見えない“裏側”を全開放する。
目次
- エスコーラ決定:ツテさえあれば門は開く
- 衣装フィッティング:羽根とビーズと重量オーバー
- 秘密リハ:WhatsAppで共有される振付動画地獄
- スタートゲート:サンバドロモの心臓が鳴る瞬間
- 本番700m:足が砂糖になるまでの13分間
- クールダウンエリア:衣装を脱ぎ捨てる儀式
- 羽根の行方:ホームレスとリサイクル経済
- まとめ:一夜で命の彩度がMAXになる都市、リオ
1. エスコーラ決定:ツテさえあれば門は開く
カーニバル2カ月前、地元友人の紹介で中堅サンバ学校 “G.R.E.S. Unidos da Alegria” の広報と面談。「外国人?歓迎! 衣装代500レアルでOK」と即決。サンバ学校(エスコーラ)の構成は——
- Comissão de Frente(オープニング演出)
- Ala das Baianas(バイアおばちゃん隊)
- Bateria(打楽器隊)
- Alas(一般ダンサー隊)
- Carros Alegóricos(フロート)
私は観客とハイタッチできる“Alas”の一列に配属。英語可、リズム感そこそこ、身長170cm——この三拍子で合格らしい。
2. 衣装フィッティング:羽根とビーズと重量オーバー
リハ倉庫で受け取ったコスチュームは 総重量8kg。背中に孔雀の開きレベルの羽根フレーム、胴はスパンコール網タイツ、頭はストロボLED付きティアラ。試着5分で首が“肩こりMAX”を宣言。先輩が笑って「本番はアドレナリンで無重力だ」と謎理論で励ます。
3. 秘密リハ:WhatsAppで共有される振付動画地獄
集合練習は週1だが、各自の宿題は WhatsAppグループに上がる振付動画。夜な夜なホテル廊下でステップ練習、ヒザをひねり、隣室の苦情ベルが鳴る。「練習=生活音」という言い訳で乗り切った。
ポイントは**“Quadradinho”**と呼ばれる腰の四角ムーブ。鏡に映すとただの関節バグ。だが動画を繰り返すうち、腰が独立OSを獲得した。
4. スタートゲート:サンバドロモの心臓が鳴る瞬間
本番当日21:00。リオ中心部のサンバドロモ裏ゲートは発電機の轟音、スモーク、スルドの爆音で地獄の工場。出陣直前、隊長が雄叫び「Samba no pé, amor no coração!(足にサンバ、心に愛!)」。全員がスプレー式グリッターを空に噴射、銀の霧が満月光を反射する。
5. 本番700m:足が砂糖になるまでの13分間
22:05、花火が上がりコール響く——“Alas 7, GO!”。スタートゲートの床が振動。観客席は立ち上がり、8万人の歓声がミキサーの暴走音になる。スポットライトで視界が真っ白、耳はBateriaの120デシベル。
- 0–2分:観客とのハイタッチ連射、羽根が視界を奪う。
- 3–6分:Quadradinho連続、腰と羽根が同期し始める。
- 7–10分:フロート横でスモーク砲が誤射、前列消えるも踊り続行。
- 11–13分:ゴールアーチが見え、涙腺決壊。声が出ない代わりに笑ってた。
足は砂糖みたいに溶け、脳はエンドルフィン洪水。それでもステップは止まらない。不思議。
6. クールダウンエリア:衣装を脱ぎ捨てる儀式
ゴール後、裏手の解放区で全員がジャケット撮影→即脱ぎ捨て。理由:汗3リットルを吸った羽根は鉛より重い。スパンコールは肌に貼り付き、呼吸が苦しい。「Take it off, agora!」の声に従い、ネジ式フレームを外し床にドサリ。爽快感が酸素より濃い。
7. 羽根の行方:ホームレスとリサイクル経済
30分後、裏門に出ると路上に衣装の山。すでに ホームレスや廃品回収人 が袋に詰めている。彼らは羽根を洗浄し再販、LEDはバラして闇市へ。サンバの華やかさは彼らの一夜の収入源になる。リオに漂う“持ちつ持たれつの非公式エコシステム”。
洗った羽根が翌年またどこかのパレードで舞う——輪廻転生がフェザー仕様。美しさとリアルが共存。
8. まとめ:一生に一度の熱狂は、足と心で踏み抜く
観客席からの歓声、サンバ学校の家族感、裏方の職人魂、そして終演後のリサイクル経済——すべてがサンバパレードという巨大クルーシブルで溶け合い、私という個人を再鋳造した。翌朝、声はガラガラ、太ももは石化。それでもホテルの鏡に映る瞳はフルハイライト。
結論:見るより踊れ。踊るより飛び込め。熱狂はアウトソーシング不可。リオはそれを体に刻む街だ。
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