はじめに ― 「いま、あなたの 100 メートルは何ですか?」
スペイン人トライアスリート ラモン・アローヨ氏は 2004 年に 多発性硬化症(Multiple Sclerosis, MS) と診断され「100 m も歩けなくなる」と宣告されました。しかし 2013 年、スペイン・カレリャでフルアイアンマン(3.8 km 泳・180 km 自転車・42 km 走)を完走し、その軌跡は映画『100 メートル』として世界に知られています。WikipediaX-BIONIC® Performance Wear
本記事では、氏が語った最新セミナー 「Rendirse no es una opción(諦めることは選択肢にない)」 の内容を、参加者としてレポートします。
1.講師プロフィールと背景

Ramón Arroyo
年 | 出来事 |
---|---|
1971 | スペイン・ビルバオ生まれ |
2004 | MS 診断を受ける |
2008 | “自宅―地下鉄駅 100 m” を初走破 |
2013 | フルアイアンマン完走(カレリャ大会) |
2016 | 映画『100 メートル』公開・脚本監修 |
2.多発性硬化症(MS)を 100 字でつかむ
中枢神経のミエリン鞘が自己免疫で損傷し、視覚障害・四肢のしびれ・強い疲労などが再発と寛解を繰り返す疾患。世界の患者数は 約 280 万人(2020 年)、診断時の約 85 % が再発寛解型(RRMS)。PMCNational Multiple Sclerosis Society
キー知識(セミナーで触れられた項目)
- 熱で症状が一過性に悪化(Uhthoff 現象):体温上昇が神経伝導を一時的に阻害する。ncbi.nlm.nih.gov
- 最新治療:B 細胞標的抗 CD20 抗体(オクレリズマブ、オファツムマブ等)が再発抑制に有効。San Francisco ChroniclePMC
3.セミナー構成と主要メッセージ
時間 | パート | キーワード |
---|---|---|
00:00–00:15 | オープニング | “100 m ルール” |
00:15–00:45 | ストーリーテリング | 診断・否認・転機 |
00:45–01:30 | Método 100 Metros 解説 | 環境 モチベーション チーム |
01:30–02:00 | クロージング Q&A | リスク管理・家族の役割 |
※ 今回はワークショップ(紙に 100 m を書く実習)は行われませんでした。講義形式でメソッドが丁寧に説明されています。
4.“Método 100 Metros” を深掘りする
4-1 環境に打ち勝つ視点
- 事実を “可測値” に落とす
- 「100 m しか歩けない」という宣告を“克服単位”に変換。
- 負荷の分散
- ラン単独ではなくスイム・バイクを組み合わせ、体温上昇と筋肉酷使を抑制。
- データで恐怖を制御
- 心拍数 150 bpm を超えたら氷嚢・冷水でクーリング。Uhthoff 予防をルーチン化。
4-2 モチベーション管理──“自発性”を起動する3ステップ
ステップ | 行動 | ねらい |
---|---|---|
感情を認識 | 恐怖・怒りを「存在してよい」と言語化 | ネガティブ感情を “燃料” へ転換 |
信念を宣言 | 「まだ終わっていない」と声に出す | 内言を外言化し、自己コミットを強化 |
小さな達成を祝う | 100 m → 150 m 達成を家族と共有 | ドーパミンループを回す |
Quote
“La motivación no cae del cielo; se fabrica.”
──「モチベーションは天から降ってこない。自分で作るものだ。」
4-3 「チーム」で挑むアイアンマン
役割 | 具体的な支援 |
---|---|
家族 | 練習スケジュール共有、食事・休養の管理 |
医療スタッフ | 週次で症状とデータをレビュー |
仲間 | 自転車メカニック、練習の伴走など専門スキル提供 |
氏は「アイアンマンは個人競技に見えるが、実際はチームで挑むリレーだ」と強調。ゴールテープを切る瞬間は“チームの代表”として走るのだと語りました。
5.セミナーのエモーショナルデザイン
- 視覚 : 映画『100 メートル』予告編上映/実物トライアスロンバイク展示
- 聴覚 : バスク音楽からレース中の心拍音へフェードし臨場感を演出
- 触覚 : 参加者全員に FINISHER リストバンド を配布し「自分もレースの一員」という感覚を付与
- 言語 : ユーモア 8 : 専門語 2 の比率で、難病テーマの重さを軽減
6.まとめ ― “100 メートル”を歩くのは今日の自分だ
アローヨ氏のメッセージは明快です。
「成功はゴールではなく、“続ける権利” を得ただけ」
病気や逆境という環境を 行動単位(100 m) に分解し、信念とチームで乗り越える──その哲学は、スポーツに限らず私たちの日常にも直結します。読者のみなさんも、今日 “あなたの 100 メートル” を設定してみてください。限界を再定義できるかどうかは、環境ではなく あなた自身 が決めるのだと、セミナーは教えてくれました。
本記事の医学情報は Atlas of MS(2020)、National MS Society、査読論文などを基に作成・検証しています。治療や症状については必ず専門医にご相談ください。
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