はじめに ―― 「ゴールへ滑り込むまで、アイデアは曲がり続けていい」
スペイン初のスケルトン五輪選手 Ander Mirambell 氏は、氷上トラックも強化体制も存在しなかった母国で自らチームを編成し、2010 年から 2022 年まで4大会連続で五輪へ出場しました。olympics.com
今回のセミナー 「Project on Ice ── 不確実性を滑りきる7つの原則」 では、
- 氷のない国で競技プロジェクトを成功させた実例、
- 参加者が“競技連盟の担当者”になりきって議論する 4 問ワークショップ
が実施されました。
1.講師プロフィールと“氷のない挑戦”

Ander Mirambell
年 | ハイライト | 出典 |
---|---|---|
1983 | カタルーニャ州カレリャ生まれ | |
2005 | ラトビア・シグルダで初滑走、国際大会デビュー | |
2010–2022 | バンクーバー〜北京まで五輪4大会連続出場 | olympics.com |
2014 | 自伝『Rompiendo el Hielo』刊行 | books.google.com |
2022 | 引退後に育成プロジェクト Skeleton’s Serious Kids を始動(45 名→9 名選抜) | Sweden Film AwardsDiario AS |
Quote
“España no tiene hielo, pero sí proyectos.”
──「スペインに氷はない。しかしプロジェクトは創れる」
2.成功事例:スペイン代表スケルトン・プロジェクト
2-1 “0→1” の資源設計
課題 | 代替策 | 効果 |
---|---|---|
トラックなし | ラトビア・ドイツへ遠征拠点を確保 | 年 60 回滑走を確保 |
専門スタッフ不足 | 物理学者・F1 メカニック・スポーツ科学者を招集 | ソリ空力最適化で 0.18 秒短縮 |
資金不足 | クラファン+地方自治体観光 PR をパッケージ | 目標比 212 % の資金調達 |
2-2 成果とレガシー
- 五輪4大会連続出場
- 若手9名の育成プログラムが始動し、2026 年ミラノ=コルティナ五輪を視野に強化中
このストーリーは「環境が不利でも資源をデザインすれば国家プロジェクトが動く」実証例として紹介されました。
3.講義パート:7つの原則
# | 原則 | ひと言サマリー |
---|---|---|
1 | Imagina la pista(滑走路を想像せよ) | ゴール体験を全員で“映像化” |
2 | Divide la curva(カーブを分割せよ) | 2週間=1カーブで検証 |
3 | Adopta el frío(寒さを味方に) | 不利を差別化要因へ転換 |
4 | Mide, comparte, corrige | 24 h で計測→共有→修正 |
5 | Motivación ≠ Ánimo | 信念と気分を切り分ける |
6 | Juega en equipo | 円環型チームで専門性を束ねる |
7 | Diseña el legado | 成果と同時に“次世代”を設計 |
4.ワークショップ:連盟幹部になりきり“自分たちのトラック”を描く
参加者は6〜8名でテーブルを組み、「自分たちは競技フェデレーションの担当者」 という設定で討議。Mirambell 氏のフィードバックを受けながら、次の 4 つの問い に取り組みました。
質問 | 原則との対応 | 主要ディスカッション例 |
---|---|---|
Q1 プロジェクト遂行に必要なことは? (目標設定・タイムライン・ファイナンス管理など) | ①②④ | “3期×12か月”ロードマップ/クラファン+スポンサーの二層資金調達 |
Q2 必要な人材は? | ③⑥ | 競技技術顧問・法務・マーケター・メディカルチーム…円環図で役割をマッピング |
Q3 計測すべき内容は? | ④⑤ | KPI=スタート15 m タイム/SNSインプレッション/資金 burn rate を週次共有 |
Q4 プロジェクトのレガシーは? | ⑦ | トラック建設計画/ナショナルチーム育成モデル/オープンデータ化 |
各ラウンド後、代表者が 60 秒ピッチ→氏が「指標とアクションが直結しているか?」「レガシーは社会的インパクトで語れるか?」と鋭い質問を投げ、会場は終始インタラクティブな熱気に包まれました。“Mirambell の視点” で考えることで、参加者は自組織のプロジェクト推進を多角的に捉えるヒントを得た と感じます。
5.チームが生む“複利”
役割 | コントリビューション | 複利効果 |
---|---|---|
家族 | 生活リズム・遠征資金の安定化 | 心理的安全+免疫維持 |
専門家 | 工学・医学・マーケ各領域の橋渡し | 学習曲線を短縮 |
スポンサー | 資金のみならずデータ・ネットワーク提供 | 競技→ビジネス転用ルート |
ファン | SNS 拡散・クラファン | 行動に社会的意義を付加 |
Mirambell 氏は「個人がゴールを滑り抜ける瞬間、それはチーム全員の勝利だ」と強調しました。
6.セミナーの体験設計(五感)
感覚 | 演出 | 効果 |
---|---|---|
視覚 | 五輪ヘルメット+クラッシュ動画 | 失敗を学習データへ転換 |
聴覚 | 氷上滑走音→参加者心拍 SE | 集中と解放の同期 |
触覚 | ミニスレッド型バッジ | 「自分も乗った」感覚 |
嗅覚 | ミントオイル噴霧 | 氷点下の空気を想起 |
7.まとめ ―― “氷を創る”プロジェクト思考
Ander Mirambell 氏は、氷のない国でスケルトン競技を根づかせた 実践的パイオニア です。7 原則と 4 問ワークショップは、
- 不確実性を前提条件 に受け入れ、
- 資源を設計し直し、
- チームという複利装置 に投資する
方法論を体得させる絶好のトリガーとなりました。
あなたの組織にも、“氷がない”という理由で止まっている計画はありませんか? 今日まずは Q1「プロジェクト遂行に必要なこと」を洗い出す ところから始めてみてください。曲がりくねったカーブの先にゴールは続いています。
本記事は取材日現在の公開情報をもとに作成しました。競技・ビジネス戦略・医療に関わる専門的判断は各分野のプロフェッショナルへご相談ください。
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